2024年4月、改正障害者差別解消法が施行され、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されました。
「自社のホームページは法律に違反していないだろうか」と不安を抱える企業担当者の方も多いのではないでしょうか。対応を調べるうちに「JIS X 8341-3」と「WCAG 2.2」という二つの基準にたどり着き、「結局どちらに合わせればいいの?」と迷っている方へ向けて、この記事では両者の違いと、企業として最適な基準の選び方をわかりやすく解説します。
WCAGとJIS X 8341-3は何が違うのか

WCAGとは、W3C(World Wide Web Consortium)というウェブ技術の標準化を行う国際団体が策定した、世界共通のウェブアクセシビリティガイドラインです。正式名称は「Web Content Accessibility Guidelines」で、2023年10月に最新版であるWCAG 2.2がW3C勧告として公開されました。このガイドラインは国際標準規格ISO/IEC 40500としても採用されており、世界中の企業や公的機関がウェブアクセシビリティ対応の基準として参照しています。
一方、JIS X 8341-3は、WCAGの内容をもとに日本の事情を踏まえて策定された国内規格です。正式名称は「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」で、「8341」は「やさしい」の語呂合わせに由来しています。現在の最新版であるJIS X 8341-3:2016は、国際規格ISO/IEC 40500:2012と技術的な内容が完全に一致する「一致規格」として2016年に改正されました。つまり、JIS X 8341-3:2016の達成基準を満たせば、WCAG 2.0の達成基準も同時に満たしていることになります。
ここで知っておきたいのは、現行のJIS X 8341-3:2016はWCAG 2.0(2008年策定)と同等の内容であり、最新のWCAG 2.2との間には約15年分のアップデートの差があるという点です。WCAG 2.1で追加されたモバイル端末への配慮や、WCAG 2.2で新たに盛り込まれた認知障害への対応基準などは、現行のJIS規格にはまだ反映されていません。
企業はまずJIS X 8341-3から始めるべき理由
「JIS規格とWCAGのどちらで進めるべきか」という質問は、アクセシビリティ対応を検討し始めた企業からもっとも多く寄せられる疑問です。結論から申し上げると、日本国内で事業を展開する企業であれば、まずはJIS X 8341-3:2016のレベルAAを目標に対応を進めることをおすすめします。
その理由は大きく二つあります。一つ目は、JIS X 8341-3が日本の公式規格として確立されており、総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」でも公的機関にレベルAA準拠が求められているからです。民間企業が取引先や社内に対して「なぜアクセシビリティ対応が必要なのか」を説明する際にも、国の規格に基づいているという根拠は大きな説得力を持ちます。
二つ目は、国内の制作会社や検証会社の多くがJIS規格ベースでサービスを提供しており、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)による日本語の解説書やチェックリストも充実しているからです。自社だけで対応を進める場合でも、外部パートナーに依頼する場合でも、JIS規格を基準にすれば情報やノウハウが得やすく、現実的な対応計画を立てやすいと言えます。まずは基本となるJIS規格を確実にクリアした上で、次のステップとしてWCAG 2.2への対応を視野に入れるのが、もっとも堅実な進め方です。具体的な対応手順については「ウェブアクセシビリティチェック完全ガイド|対応手順と基準」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
WCAG 2.2で追加された基準も無視はできない
「JIS規格で十分なら、WCAG 2.2は知らなくていいのでは」と思われるかもしれませんが、そうとも言い切れません。WCAG 2.2は現行のJIS規格(WCAG 2.0相当)に対して、達成基準の数が約1.44倍に増えており、特にスマートフォン時代に対応した重要な基準が数多く追加されています。
たとえば、スマートフォンのタッチ操作に関しては「タッチターゲットのサイズ」という新しい基準が設けられました。これは、ボタンやリンクの領域が小さすぎると高齢者や手の震えがある方がタップしにくいという課題に対応するもので、最低24×24ピクセル以上の操作領域を確保することが求められます。また、認知障害のある方への配慮として「一貫したヘルプ」や「冗長な入力の排除」といった基準も加わりました。これらは、問い合わせフォームで毎回同じ情報を入力させないなど、すべてのユーザーにとっての使いやすさを向上させる内容です。
ただし、こうした新基準を最初からすべて満たそうとすると、対応範囲が広がりすぎてプロジェクトが頓挫するリスクがあります。まずはJIS X 8341-3:2016のレベルAAという確実な土台を築き、その上でWCAG 2.2の追加基準に段階的に取り組むのが現実的です。アクセシビリティ対応が難しいと感じる理由の多くは、こうした優先順位付けができていないことにあります。
WCAG 2.2で追加された主な内容
・スマートフォンでの操作をより使いやすくするルール(「タッチターゲットのサイズと間隔」や「ポインターの操作」など)
・認知障害のある方への配慮(「操作の一貫性」や「パスワード認証における認知機能への配慮」など)
・より細かなユーザビリティ向上
JIS規格の改正は2026年度中にも実現する見込み

JIS X 8341-3の改正はもはや「可能性」の段階を超えています。2025年9月に国際規格ISO/IEC 40500がWCAG 2.2の内容で更新され「ISO/IEC 40500:2025」となったことを受けて、2025年10月にはウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が「JIS X 8341-3改正原案作成委員会」を正式に発足させました。改正原案の方針として、ISO/IEC 40500:2025との一致規格とすることが確認されており、順調に進めば2026年度中にも改正JISが発行される見込みです。
ここで安心していただきたいのは、WCAGは常に下位互換性を保った形でバージョンアップされるという点です。つまり、現在JIS X 8341-3:2016を基準に取り組んでいる内容は、改正後の新JISでもそのまま有効であり、無駄になることはありません。むしろ、今のうちにJIS規格レベルAAの土台をしっかり固めておくことが、改正後のスムーズな移行につながります。
とはいえ、新規にサイトを構築する場合やリニューアルを控えている場合は話が変わります。総務省が2024年5月に改訂した「みんなの公共サイト運用ガイドライン」では、新規構築時には「できる限りWCAG 2.2の達成基準に基づき構築する」ことが推奨されています。今からサイトを作り直すのであれば、最初からWCAG 2.2を見据えた設計にしておくほうが、1〜2年後に再び改修費用を投じる事態を避けられます。
総務省が伝える「公的機関の責務」
総務省が公表している資料「ウェブアクセシビリティ対応は – 公的機関の責務です」では、ウェブアクセシビリティについて重要なポイントが示されています。
ウェブアクセシビリティは法律に基づく責務
- 障害者基本法:国及び地方公共団体は、行政の情報化において障害者の利用の便宜を特に配慮しなければならない
- 障害者差別解消法:ウェブアクセシビリティは「環境の整備」として計画的推進が求められている
- JIS X 8341-3:ホームページを誰もが利用できるものとするための基準
障害者差別解消法は2021年に改正され、その改正法が2024年4月1日に施行されました。これにより、それまで努力義務にとどまっていた民間事業者への「合理的配慮の提供」が法的義務へと引き上げられています。
ただし、ウェブアクセシビリティへの対応は法律上「環境の整備」に位置づけられており、現時点では努力義務です。罰則規定はありませんが、対応を怠った場合には主務大臣による助言・指導・勧告の対象となりえます。「義務じゃないなら後回しでいい」と考えるのは危険で、法の趣旨を踏まえた対応を行うことが、企業としてのリスク管理にもつながります。
よくある間違った理解
この資料では、ウェブアクセシビリティに関してよくある誤解についても明確に否定しています。
まず、「アクセシビリティ対応をするとデザインが崩れるのでは」という懸念について。色や画像、動画の使用を控える必要はなく、魅力あるデザインとの両立は十分に可能です。重要なのは、たとえばテキストと背景色のコントラスト比(文字の読みやすさを数値で測る指標)をJIS X 8341-3の基準値(4.5:1以上)に保つといった、具体的な技術基準を満たすことです。
次に、「制作会社に任せているから大丈夫」という認識も危険です。原稿を用意する社内担当者、ページを公開する承認者にもアクセシビリティに関する基本的な知識が求められます。たとえば、画像を掲載する際に適切な代替テキスト(画像の内容を説明するテキスト情報。視覚障害のある方が音声読み上げソフトで内容を理解するために不可欠)を設定することは、制作会社ではなくコンテンツを管理する担当者の役割です。
さらに、「一部のページだけ対応すればAA準拠と言える」という理解も誤りです。ウェブアクセシビリティの試験は、サイト全体を対象に行い、その結果を公表する必要があります。初心者でもできるウェブアクセシビリティチェックの第一歩を参考に、まずは自社サイトの現状を正しく把握するところから始めてみてください。
❌「デザインを損なうもの」 → 色や画像、動画などを控える必要はありません。魅力あるデザインとの両立が可能です。
❌「事業者に委ねるだけで十分」 → 原稿を用意する人、ページの作成者、承認者にも求められる対応があります。
❌「問題があってもAA準拠と言える」 → 全てのページの問題解消に取り組み、実態に即した試験結果の公表が必要です。
継続的な取り組みが重要
「研修、検証、改善、試験といった取組を毎年継続し、品質を維持・向上する」ことが求められています。
ウェブアクセシビリティは一度やったら終わりではなく、継続的な改善が重要です。
ウェブアクセシビリティの理解を深めるために、総務省やデジタル庁などが提供している資料が大変参考になります。
- みんなの公共サイト運用ガイドライン:必要な取組内容と注意事項が詳しく示されています
- 障害者のウェブページ利用方法の紹介ビデオ:YouTube総務省動画チャンネルで公開
- miChecker(エムアイチェッカー):総務省開発の無料評価ツール
- デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」:考え方や取り組み方のポイントを解説
「うちのサイトは大丈夫?」チェックで見つかる典型的な問題
今のホームページで問題ないと思っていても、実際にチェックしてみると意外な問題が見つかることが多いんです。

多く見つかる問題

「たぶん大丈夫だろう」「制作会社に任せているから問題ないはず」と思っていても、実際に専門的な観点でチェックしてみると、想定外の問題が見つかるケースが大半です。ハマ企画がこれまでチェックを行ってきた中でも、特に多く見つかる問題を紹介します。
もっとも頻度が高いのは、画像に代替テキストが設定されていないケースです。代替テキストとは、画像の内容をテキストで説明する情報のことで、視覚障害のある方が音声読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使ってサイトを閲覧する際、画像の代わりにこのテキストが読み上げられます。代替テキストがないと、その画像が何を伝えようとしているのかがまったくわからなくなってしまうのです。
次に多いのが、テキストと背景色のコントラスト不足です。デザイン上おしゃれに見える薄いグレーの文字や、背景色に近い色のテキストは、ロービジョン(弱視)の方や高齢者にとって非常に読みにくくなります。JIS X 8341-3では、通常のテキストで4.5:1以上のコントラスト比を確保することが基準として定められています。
また、キーボードだけで操作できないナビゲーションやフォームも深刻な問題です。手の震えや麻痺などでマウスを使えない方は、Tabキーやエンターキーでサイトを操作します。メニューがマウスホバーにしか反応しない、フォームの送信ボタンにキーボードでたどり着けないといった問題があると、そうしたユーザーはサイトの目的を果たすことができません。
このほかにも、見出しタグ(h1〜h6)の順序が飛んでいる、動画に字幕がついていないといった問題も頻繁に見つかります。これらはいずれも、実際に専門的なチェックを行わなければ気づきにくいものばかりです。「何から手をつければいいかわからない」という場合は、まずハマ企画のウェブアクセシビリティチェックサービスにご相談ください。現状のサイトにどのような問題があるのか、優先的に改善すべき箇所はどこなのかを、わかりやすくレポートいたします。
JIS規格に基づくアクセシビリティチェックはハマ企画にお任せください

ここまでお読みいただき、「基準の違いは理解できたけれど、自社サイトの現状がどうなっているのかわからない」と感じた方も多いのではないでしょうか。ハマ企画では、現在の日本標準であるJIS X 8341-3:2016のレベルAAに基づいたアクセシビリティチェックを提供しています。
私たちのサービスの特徴は、「チェックして終わり」ではないことです。診断結果をもとに、どの問題を優先的に改善すべきか、改修にどの程度の工数がかかるかといった改善計画のご提案から、既存の制作会社さんとの技術的な連携、改善後の再チェックまで一貫して対応します。「社内にアクセシビリティの知識がない」「入札でJIS規格準拠が求められているが何をすればいいかわからない」といったお悩みにも、基本的なところから丁寧にご説明しますのでご安心ください。
2026年度中にも見込まれるJIS規格の改正に備えて、今のうちに自社サイトの現状を把握しておくことは、将来の手戻りを最小限に抑えるためにも重要です。まずは現状を知ることが第一歩です。アクセシビリティチェックのご相談・無料お見積りはこちらからお気軽にお問い合わせください。
こんな方にオススメ
まず現状を知ることが、最善の第一歩になる
ウェブアクセシビリティ対応は、もはや「やるかやらないか」ではなく「いつ始めるか」のフェーズに入っています。2024年4月の改正障害者差別解消法の施行、そして2026年度中にも見込まれるJIS X 8341-3の改正。こうした流れの中で、早めに着手した企業ほど、対応コストを抑え、余裕を持った改善スケジュールを組むことができます。
とはいえ、いきなりすべてを完璧にする必要はありません。まずはJIS X 8341-3:2016のレベルAAを基準に自社サイトの現状を把握し、優先度の高い問題から一つずつ改善していく。その上で、改正JISやWCAG 2.2の新しい基準にも段階的に対応の幅を広げていく。この積み重ねが、「誰にとっても使いやすいサイト」の実現につながります。
ハマ企画は横浜を拠点に、BtoB中小企業のWebマーケティングを長年支援してきた会社です。ウェブアクセシビリティの専門知識と、Webサイト制作・運用の現場感覚の両方を持つチームが、御社の状況に合わせた最適な対応プランをご提案します。「まず話を聞いてみたい」「自社サイトに問題がないか確認したい」という段階でも構いません。ウェブアクセシビリティについてのご相談はこちらから、お気軽にお問い合わせください。

- 現状把握:今のサイトの状態をチェック
- 基本対応:JIS規格での問題解決
- 継続改善:定期的なメンテナンス
- 将来準備:新しい規格への対応
「まず話を聞いてみたい」という方は、お気軽にご相談ください。
対応できるところから一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。

