発注仕様書に「JIS X 8341-3:2016のレベルAAに準拠すること」と一行だけ書かれている。
発注する自治体職員も、入札に応じる制作会社も、この一行が具体的に何を求めているのか判断できないまま仕様書をつくり、委託先はこの仕様書を元に見積を出していことはないですか?
公共調達では仕様書に対する読み込みが浅く納品と検収時のトラブルになります。
仕様書のアクセシビリティ要件は、規格名・対応度・試験の範囲の3点で読み解きます。
総務省が公開している「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2024年版)」では、地方公共団体等のホームページについて、ウェブアクセシビリティ方針の策定・公開、試験、取組結果の公開などが一連の手順として示されています。仕様書の一行は、この手順のどこまでを求めているのかという問いに置き換えられます。
なぜ「レベルAA準拠」の一行で見積もりが割れるのか?
とても簡単です、同じ「レベルAA準拠」一行を読んでも、対象ページ数・試験の実施範囲・結果公開の有無の解釈が委託先会社ごとに違うからです。
行政の仕様書に規格名だけが書かれている場合、共通テンプレートの色とマークアップを直せば足りると考える会社と、対象ページを選定して達成基準ごとに試験を行い、結果をホームページ上で公開するところまでを見込む会社が、同じ入札に並びます。
この2社では作業量が数倍違い、当然金額も違います。発注側の行政は金額の安い委託先を選び、納品の段階になって「試験結果が公開されていない」と気づきます。当社が自治体案件の仕様書を確認する中で、しばしば見られるすれ違いの一つです。
(本来はプロポーザルが望ましい案件ではあります)
先ほどの総務省ガイドラインが方針の公開から試験結果の公開までを手順として示している以上、「準拠」という言葉は作って終わりの状態を指していません。※注意1
ここを共通認識にしないまま入札を進めると、金額の比較そのものが成立しなくなるのです
注意1:「準拠」は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」に基づく表記です。この意味で「準拠」と表明するには、方針を公開し、試験によって対象となる達成基準をすべて満たしていることを確認したうえで、試験結果を公開する必要があります。
仕様書のどこを最初に確認すればよいか?
規格の名称と年版、対応度を表す言葉、試験の対象範囲。この3点を先に探します。
仕様書は分量が多く、アクセシビリティに関する記述は数行しかないことがほとんどです。全文を読み込む前に、この3点だけを抜き出してください。3点がそろっていれば作業量は見積もれます。1つでも欠けていれば、質問期間中に照会を出すべき箇所だと判断できます。
最近ではAIで文脈の分析が可能ですので、読み解けない場合はAIを活用ください
規格の名称と年版が書かれているか
「JIS X 8341-3」とだけ書かれている仕様書があります。この規格は年版によって内容が違い、現行はJIS X 8341-3:2016です。この規格はISO/IEC 40500:2012、つまりWCAG 2.0と一致する内容として制定されています。年版の記載がない場合、どの版を指しているのかを最初に確認してください。(まずは古い年版で行うことはまずありませんが)
対応度がどの言葉で書かれているか
「準拠」なのか「一部準拠」なのか「配慮」なのか。あるいは「レベルAA相当」「AAを目指す」といった、対応度の表記として定義されていない言葉なのか。この一語で成果物に試験と公開が含まれるかどうかが変わります。定義されていない言葉が使われている場合は、成果物として何を納めるのかを文書で確認しておくべき箇所です。
試験の対象範囲が指定されているか
全ページなのか、選定した一定数のページなのか、代表的なページのみなのか。
ページ数の記載がない仕様書がいちばん危険です。自治体のホームページは数千ページ規模になることがあり、対象範囲が決まらないと見積もりの前提が立ちません。
「準拠」と「一部準拠」は何が違うのか?
準拠は対象範囲のすべての達成基準を満たした状態、一部準拠は満たせない基準が残る状態を指します。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会が示している対応度の表記では、「準拠」「一部準拠」「配慮」が使い分けられています。準拠を名乗る場合は試験を実施し、その結果を公開することが前提になります。
「一部準拠」は、目標とした適合レベルの達成基準の一部を満たしていることを試験で確認し、今後の対応方針を示す表記です。試験結果の公開は任意です。なお、レベルAAに一部準拠と表記するには、レベルAに準拠していることが前提となります。
実務上の意味は明快です。仕様書に「準拠」と書かれていれば、試験と結果公開が成果物に含まれます。
「配慮」であれば試験は必須ではありません。(※注意)同じアクセシビリティ対応という言葉でも、この一語で工数が変わります。見積書に試験費用を計上するかどうかは、ここで決まります。
注意:「配慮」の表記では試験は必須ではありません。ただし、ウェブアクセシビリティ方針を提示または公開し、目標とした適合レベル、または参照した達成基準の一覧を示す必要があります。
WCAG 2.2への言及があったら何を意味するのか?
JIS X 8341-3:2016はWCAG 2.0と一致する規格のため、2.1と2.2で追加された基準は含まれていません。
近年の仕様書には「JIS X 8341-3:2016のレベルAAに準拠し、あわせてWCAG 2.2の達成基準を考慮すること」といった書き方が現れます。この2つを同じものとして読むと、見積もりが狂います。WCAG 2.1は2018年、2.2は2023年に勧告されており、そこで追加された達成基準はJIS X 8341-3:2016の試験項目には含まれていないからです。
たとえば、WCAG 2.2で追加されたレベルAAの達成基準2.5.7「ドラッグ動作」と、達成基準2.5.8「ターゲットのサイズ(最低限)」が該当します。前者はドラッグを必要としない単一ポインタ操作の代替を求め、後者は原則として操作対象を24×24 CSSピクセル以上にするか、十分な間隔などの例外条件を満たすことを求めています。
JIS準拠の試験を通しただけでは、これらを満たしたことにはなりません。仕様書に両方が書かれている場合、どちらを検収の基準とするのかを質問期間中に確定させておくことが、後のトラブルを防ぎます。
見積もりから抜けやすい作業はどこか?
試験の実施と結果の公開、そしてPDFや動画の扱い。この3点が見積もりから抜けやすい部分です。
デザインとコーディングの工数は誰でも計算します。抜けるのは、制作が終わったあとに発生する作業と、ホームページ本体ではないコンテンツです。特に既存資産の量は自治体ごとに大きく違うため、仕様書を読んだだけでは把握できません。現地のホームページを開いて数えるしかない部分です。
- 試験の実施:対象ページを選定し、達成基準ごとに1つずつ確認していく作業です。ウェブアクセシビリティ基盤委員会が公開している試験実施ガイドラインでは、ランダムに一定数以上のページを選ぶ考え方が示されています。※注意2
- 試験結果の公開:対象としたページと達成基準ごとの結果を、ホームページ上で公開する作業です。準拠を名乗る場合はここまでが一式になります。
- PDFと動画:ホームページに掲載するPDFや動画も対象に含まれます。ただし、実際にどのPDF・動画を試験対象に含めるかは、ウェブアクセシビリティ方針で定めた対象範囲によります。対象外とするコンテンツがある場合は、その範囲と理由を明確にする必要があります。
既存のPDFが数百件ある自治体では、3点目だけで見積もりの前提が変わります。
自治体案件でどこまでを成果物に含めるべきか判断に迷う場合は、自治体・公共向けのホームページ支援で、仕様書を見ながら範囲の整理からご相談いただけます。入札前の段階でも構いません。
注意2:ウェブアクセシビリティ基盤委員会の「JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン(2020年12月版)」では、ランダム選択の場合、11~24ページを合否判定に要する最低限、25~39ページを標準的、40ページ以上を十分なページ数の目安としています。総ページ数が100ページを超えるサイトでは、代表ページとランダムページを組み合わせ、合計40~50ページ程度を対象とする方法が推奨されています。
補足「動画の字幕や音声解説」について:録画済みの同期メディアでは、達成基準1.2.2「キャプション(収録済み)」がレベルA、達成基準1.2.5「音声解説(収録済み)」がレベルAAです。適用の有無は、動画に含まれる音声・映像の内容や、動画がテキストの代替であるかなどによって判断します。
発注側は仕様書に何を書けば齟齬(そご)が減るのか?
規格の年版、対応度の言葉、試験の対象ページ数、結果公開の要否。この4点を書けば入札の前提がそろいます。
発注側の職員も、前年度の仕様書を引き継いで書いていることがほとんどです。アクセシビリティの記述だけが数年前のまま残り、年版が古いまま、あるいは対応度の言葉が曖昧なまま残っている。悪意ではなく、引き継ぎの構造から生まれる問題です。だからこそ、この4点だけを見直すという形にすると実行しやすくなります。
書き方の順序は、総務省ガイドラインが示す手順に沿えば迷いません。方針をどう扱うか、試験をどこまで行うか、結果をどう公開するか。
この順に書けば、応札側が読む順序とも一致します。そのうえで応じてきた会社が実際に対応できるかどうかを見る観点は、自治体職員向けのホームページ制作会社の見極め方で整理しています。仕様書を整えたあとの選定段階で使える内容です。
ハマ企画が自治体案件の仕様書で最初に確認していること
私たちが最初に開くのは、規格の年版と、試験結果の公開に関する記述です。
この2点が決まれば、作業量の骨格はほぼ確定します。逆にこの2点が曖昧なまま見積もりを出すと、金額の根拠を説明できません。公共調達では説明できない金額がいちばん危ないため、質問期間を使って確認する前提で読み進めます。
ハマ企画は横浜で25年以上、中小企業と公共機関のホームページを支援してきました。公共分野では、東京都聴覚障害者情報提供施設のホームページのリニューアル業務を担当し、自治体のホームページのリニューアル作業も手がけています。また2005年には「アックゼロヨン・アクセシビリティアワード」で経済産業大臣賞を受賞しています。
だからこそ、仕様書を読む側と、要件に応じる側の両方を経験してきた立場から、今回の3点を挙げています。
自治体サイトのアクセシビリティ要件でよくあるご質問
3点で読み解けば公共調達のアクセシビリティ要件は扱えます
発注仕様書のアクセシビリティ要件は、専門的に見えて、確認すべき箇所は限られています。規格の名称と年版、対応度を表す言葉、試験の対象範囲。この3点を先に抜き出せば、作業量の骨格は見えます。そして「準拠」という一語には、試験の実施と結果の公開までが含まれている。ここを発注側と受注側で共有できていれば、入札の金額は比較できる数字になります。JIS X 8341-3:2016とWCAG 2.2が同じものではないという点も、質問期間中に確認しておけば済む話です。公共調達は失敗できない仕事ですが、確認する順序さえ決まっていれば、慌てる場面は減ります。仕様書を開いて、まずこの3点を探すところから始めてみてください。

